今日も、貴方のいないこの世界で、私は生きています。ハロー、わたしよ、元気にしてる? 応答せよ、マイダーリン。


「いらっしゃいませ、ご注文は?」

貴方とであった喫茶店。貴方はいつかきっと此処に戻ってくるかしら? (嗚呼、きっと駄目ね)自嘲、恥ずかしいわ、わたし。
「畏まりました。」

メロンソーダ、珈琲。其処に座ったカップルが頼んだ。(其処は私の場所よ!)嗚呼、早く戻らないと。 ボーっとしてちゃ駄目ね。
「おねーサン」

「...はい、何か?」

その声にはっとし、目が覚めた。トリップしてたみたい。

「そろそろランチでしょ?一緒に食べない?」
「...いえ、未だ仕事が残ってますので、」

あの人がいなくなってから、ご飯なんていつも独りだった。是からもきっと、ずっと、そうなのよ。 独りで、此処のケーキとミルクたっぷりの珈琲で、店の端っこに座って、食べるの。 窓から、綺麗なブーゲンビリアを見ながら。あの人がいたときは、わたしはあの人の前に座って、 花なんかには目も繰れずに珈琲とミルクが完璧に混ざるまでグルグルグルグル、しつこく掻き回してた。 ハロー、マイダーリン。あの花は今も綺麗に咲いているわ。

「そんな事言わないでサー、奢るし。」
「いえ、本当に結構ですから、」


(貴方なんか、あの人の欠片も見当たらないわ!)


...落ち着いて、仕事中だわ。さり気なく去るだけじゃない。うん、できるわ、そのくらい。

「ちょっと待ってってば」


手を、引っ張られる。触らないで、やめて。触らないで。

(何でこの人たちこんなにしつこいの?)

もう、放っておいて、沢山だわ。ハロー、ハロー、マイダーリン。助けて、わたしを。

「ちょっと、そろそろ勘弁してあげてくださいよ」
「は?誰あんた。」
「入ってこないでくれませんかー。」

ダーリン、之は貴方の分身なの?だあれ、貴方?ハローハロー、聞こえて私の声。

「あーあ、興冷め。」
「二度と来るかよ、こんな店!」
「もう来なくて結構ですよー」

嗚呼、 帰ってくれたらしいわ。助かった。でも、この人だあれ?応答なし。

(お腹がすいたわ。)

お腹の中の虫が、悲鳴をあげる前に何か、食べないと。そうだ、この人、助けてくれたんだった。

「あ、有難う御座いました」
「いえ、大変ですね」

少し、あの人に似ているわ。...失礼かしら、わたし。でもそう感じたわ。

「何か、ご馳走します。お好きな席に、お座りください」
「...じゃあ、キャラメルケーキと珈琲」

「...畏まりました。」

あの人も気に入ってたわ、この組み合わせ。甘いけど、触りの良いケーキと、珈琲が丁度合うって。 わたしも、ランチの代わりに之をよく食べているわ。やっぱり、この人はあの人の遣わした天使なの? ・・・嗚呼、羽がないわ。なら、妖精?何でもいいわ、あの人と、一緒に居られるのなら。

「.....お、待たせ致しました」

(如何して其処に座っているの!?)

其処は、わたしと、あの人の場所よ。盗らないで、お願い返して。ハロー、マイダーリン、この人に伝えて、わたしの声。

「座ってください。いつも、此処で食べてるでしょう?」

(如何して知ってるの!?)

「いつも外から見てましたから」

知らない間に口に出してたみたい。恥ずかしいわ、わたし。きっと顔も火が出るくらい真っ赤だわ。 そんなことを考えていたら、ケーキと珈琲を差し出された。「どうぞ、」と彼は言い、付け足して「ランチ、誘ったつもりなんですけれど」 と少し赤くなりながらそう言った。

「此処で、あの花を見ながらそうやって食べてるの、よく見るんですよ。この時間帯は見回りなんで」
「・・・見回り?」
「・・・・!!!(((( ;゜д゜)))」

聞いちゃいけなかったらしい。(でもそっちが先に口が滑ったんだもの)嗚呼、久しぶりだわ。 まともにこうやって人と話すのは。

「風の噂で、旦那さんが亡くなられたって聞きました」
「・・本当よ、それ」

そうよ、わたしはずっと独りでいたの。凄く悪い気がした、あの人を忘れて違う人と一緒になることが。 そう考えてみると周りには其れほど大事な物は無かった。丁度良かった、空っぽにできたわ。 食べていけたら、其れでよかった。

「それで?」

「それで、何時までも引きずってるのが見ていられなくなりまして、」
「...そう、でもそれはわたしの勝手よ?」
「でも、俺は貴方の幸せを願って止みません」

貴方に願われたって仕様が無いじゃない。もう是だけ縛られているの、今更そんな事考えたって一緒だ。 忘れるくらいなら、動きたくない。今、死んだっていい。何時終わりが来たって、いいの。受け止められる。 やっぱり貴方、似てるけれどあの人じゃないわ。そんなに、傷を抉る様な事、言わないもの。

「...貴方にそんなこと言われたくない…」
「…貴方に想う人が居たことは、俺が覚えておきますから、」

 幸 せ に 、な っ て 。

なのに、零れてしまった。抉られた所から、段々、段々と、落ちてく。

大好きだった、愛してた。
ハローハロー、元マイダーリン。許してくれるかしら。私の幸せ、願ってくれるかしら。 ブーゲンビリアのブーケを春風に乗せて、届けるわ。受け取ってね、許してね。願って、祈ってね。

ハロー、マイダーリン。新しい、わたしの幸せの神様。

「…、です。。」
「山崎退です」

はじめましてだね、ブーゲンビリア。




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(2005.10.27 夢色企画)