王子様は、本当に居て、お姫様は私じゃなかった。あの人はいつもキラキラしていて、 私はその辺で畑でも耕してるようなお婆さんの様。永遠に魔法使いにも出会うことは無い。 だから迎えも来ない。          それでも



私は何時もの様に朝餉の支度を始めた。教団の食堂で働き始めてから、もう直一年が経つ。 その時の中で、リナリーという可愛いお友達もできたし、料理も随分と上手くなった。
そして、ちゃんと出会いもあった。その人を、私は誰にも打ち解けず、心の中にずっとしまっておこう と想っていた。
「そんなの駄目よ!」
リナリーに、オムレツを食していたスプーンで指差され、駄目出しを食らった。
「当たって砕ける方がにとって良いと想うのよね」
「...いいの!私が決めたことなんだし、...第一、リナリーはその人が誰かってこともしらないじゃない」
アレンくんの料理を出来るだけ素早く作りながら、私はそう言った。(彼が来てから此処は戦場)
「え?...リーバーじゃないの?」
私は気絶しそうになったけれど、其れは何とか免れた。でも作りかけのグラタンを皿ごと落してしまい (後はチーズを乗せて焼くだけだったのに)、食堂には大きな音が何重ものエコーを作って響いていた。 暫く沈黙が続いて、私は正気を取り戻し、今何が起こったのかを取り込み終わっていた。
「...........................なんで?」
「...見てれば解るわ。気づいてないのは...そうね、三人居るか居ないかかな」
リナリーは指折り数えてそう言った。(三人の中で内一人が本人だとしたら、残りは誰? ううん、そんな事考えてる場合じゃなくて、)
「あ、あの...リナ嬢...何をお考えで...?」
「ふふ、別に?(ニヤ)」
(今……ニヤって…)(ヒロインでしょ貴方...)


そうして、衝撃のお昼時は過ぎ去った。晩食の用意をしている間、皆の視線が痛かった。 きっと、身の程知らずってさけずんでるんだわ。だから、見ているだけでよかったのに。 (リナリーの馬鹿。)(...殺される...)そんなことを考えつつ、何時もよりかなり量増しの皿洗いを続ける。 (今日は一段と例の白髪のあの子がたくさん注文してくれたからね)
ちゃん、さっき科学班が呼んでたわよ」
「え…な、なんで?」
「さあ?...今日の騒ぎ、お叱りなんじゃない?」
「も、ジェリーさんてば...怖いじゃないですか」
「冗談冗談、さあ此処は良いから。いってらっしゃい」
ジェリーさんにそう言われて、私は思い脚をずるずる引きずって歩く。 (彼には弱いのよね、私)(あ、彼女だったわ)
「あら、!」
「...リナリーぃ...」
「あは、何で泣きそうな顔してるの?呼ばれてるんでしょ、早く!」
私の無言の訴えに、彼女は気づいてくれなかった。もう、絶交だよ。


...あれ?可笑しい。

「...ね、何で私が呼ばれてること、知ってるの?」
「......あは、」

太陽のように眩しい笑顔が見えたと思ったら、私は地に脚が付いていなくって、 腰を強く打った後、摩擦熱が物凄く熱い事を覚えた。ズザザザ、と高速で私は滑った。 一瞬、何が起こったのかわからなかった。でも直に其れは理解できた、私はリナリーに 思いっきり押されたのだ。
「痛、...何するのよ、リナリー!」
「ふふ、。ファイト!☆」(ガッツポーズ付き)
そうして彼女はバタン!と思いっきりさっきの扉を閉めた。 貴方の何処にそんな怪力があるのだろう。そしてあっけに取られていると、鍵の閉まる音がした。 嗚呼、閉じ込められた。立とうと思ったけど、強く打ったし、熱が未だ残っていてヒリヒリしていて、思うようにできなかった。 すると奥から、誰かやってきた。この人も閉じ込められたことになるんだ、と思うと心細さは30パーセントばかし減ったかもしれない。
「大丈夫か?スライディングしてたけど...」
「...(見られてた)、......っ!?」
声が出なかった。現れたのは、噂のナイスガイ、リーバーさんだった。 今日は如何してこんなにハプニングが起こるのか、ノイローゼにでもなるんじゃないかしら。神様、眩暈がします。 やっとリナリーのやりたかったコトが解りました。あの子はおせっかいな所もあるから、納得は出来るけれど、かなり荒っぽい。 彼女の期待に答えるべく、私は告白するべきなのでしょうか。
「...出来ないよ...」
「え?」
「...あ、いいえ。何でもないです。」
出来っこない。魔法使いも居ないのに、こんな気の弱い私が出来るわけ無いじゃない。 第一、相応しくない。一人で黙々と考えていると、頬に何か温度を感じた。
「この扉、中から鍵は掛けられるんだけど外から掛けると開けられないようになってるんだ」
寒いから、是でも飲んでおけ、と珈琲を差し出された。可愛らしい兎のマグカップ(誰のだろう)で、 ミルクと砂糖が綺麗に混ざり合っている。美味しそうな香りが充満している。 いつか顔が真っ赤になって最後は林檎に成ってしまうんじゃないだろうかと思う。なんでこんなに気を遣ってくれているんだろう。 珈琲なんかなくったって、私は暖かいよ。少しの間だけだけど、一緒に居られるのは嬉しい。
ちゃん、顔赤いけど熱あるんじゃないのか?」
「い、いえ別に...、・・・・あ、名前…?」
「...やっぱり、馴れ馴れしい?」
如何して覚えてくれているんだろう、私の名前。自惚れていいのかな。夢みたいだよ。
「...凄く、嬉しいです」



恋は私にシャランラーって音を立てて、私を少しの間だけキラキラさせてくれた。 不思議ね、今だけなら何でも出来る気がする。お姫様ってこんな風なのかなあ。 シンデレラは、私は靴なんか落してないわ。最初から、此処にいた。
「好きです」




小さな声、有難うが聞こえた。

(prism)