何度こなして来ただろう、もう覚えていないけれど、又私は任務を命じられた。

「今回は神田君と一緒だから、此方としても安心だよ」

二人とも優秀だしね、と室長は言った。当たり前だ。任務遂行のために味方なんて幾らでも見捨ててきたのだ。
(影では色々言われているらしいけど)冷たい女だと、自分でも思う。しかし今回神田と一緒と聞いて少しほっとした。
彼はどちらかと言うと、此方を肯定するだろうから、幾等かマシだと思う。
普通の人と居る事に私は間違いなのだと気づかされるのだ。

今回は近場だったので大嫌いな汽車で苦しむ事は無かった。まあ歩くと長い距離、だった。
今日は本当に良き日で、とつくづく思わされた。

「...この辺で、奇怪な現象が起きているとお聞きしたのですが?」
「嗚呼、エクソシストさんか。...この村で何人か行方不明者が出ているんだ」

行方不明者。聞くところによると人数は12人。遺体や彼らの持ち物等は何も出てこないらしい。
遊びに行ったきり帰ってこない子供、煙草を少し買いに5分出ただけで行方知れずになった者もいる。
見境なく、共通点も無いし、手がかりも無い。只の事実しか聞くことは出来なかった。
すると神田が「見ろ」と耳打ちした。辺りにはアクマによって殺され、崩れてできるアレが転がっていた。
間違いなく、居る。

「どうも失礼した」
「否、もし泊まるところが無いなら、家に来るといい。あの丘の上に住んでるんだ」
「如何も有難う御座います」

親切な村人だった。
さあ何処から探そうか、と私は言うと効率よく二手に分かれることになった。
明らかに居そうな森林の広がる方へ神田は進んで出た。(気を遣ってくれたのか、否無い無い。)
私は民家の多い住宅街を廻る事になった。辺りは皆しんとしていた。行方不明者の一人になるのが怖いのだろう。
何にも無さ過ぎるので森の方へ行こうかとも思ったが、人影が見えた。
具合が悪いのか、壁に持たれかかって、大きな掌で顔を覆っていた。
身なりはとても良い者で、黒いスーツを身に纏い、大きな帽子を被っていた。
村の人か、とも考えづらかったが、こんな何も無さ気な村に観光する者も居ないだろう、と思ったので声をかけてみた。

「...あの、如何なされましたか」

其の人は顔を上げた。

「...否?如何もしない。お気遣い如何も有難う」

そういったが、顔は如何も其の様ではなさそうだ。

嗚呼、気づくのがもう少し早ければ。
彼の手の真っ白な手袋は、赤い赤い血痕が付いていた。鼓動が早くなる。 彼が、?

「...お嬢さん、もしやっていう名前?」
「ええそうよ。貴方、アクマね?」
「はは、滅相も無い。俺は正真正銘人間だよ」
「じゃあ、貴方何者?」

只の人間、と目の前の彼はそう言った(なんて説得力が無いのだろう)。
きっと噂に聞いていた、ノアとかいう集団の一人であろう。問えば正解!と返事が返ってきた。
味方はきっと仔奴等に教われ命を落としたのだ。なんと運が悪いのか。

「私を殺す?」
「其のつもり、話が解るね」
「簡単に殺されてやら無いけどね」
「おー恐い、お兄さん困っちゃったな」

まあ、勝てる気もしないし、見込みも無いのだけれど。
でもおどけてそういうこと言うの、とても腹が立つ。

殴りかかろうと腕を振るったが、呆気無くかわされ、後ろに廻られた。
壁に押し付けられ、首をきつく締め付けられた。呼吸が侭成らない。
挑発に乗らなければ、と今更後悔する。嗚呼、私は此処で終わるのか。

「早く殺せ」
「んー、そうなんだけどな」
「時間が惜しい」
「..は、もうお前は確実に死ぬのに?」
「待つのは嫌いなの」
「そうかい」

腕の力が強くなった。
すると途端、彼は首から離れた。

「...何、?」
「辞めた」
「何で?」
「勿体無いから、」

後に取っとく。

彼はそう言った。

「じゃあ又、忘れられない声



又逢えると云う事実に私は静かに喜びを覚えた。


自惚れだろうか?


(love voice)