其の日も、どんよりと重そうな雲が辛うじて浮いているような天気だった。
何も無くても、厭な予感がするこんな日は嫌い。

「神田!」

彼は今日も任務に就く。この前帰ってきたばかりなのに。

「」
「気をつけてね」
「嗚呼」

不安で不安で、仕方が無かった。胸騒ぎというものを始めて経験した。
彼の姿が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。

それでも気分はさえなかった。

「健気ですね」
「あ、アレン...」

如何かしましたか?と私のことを気にかけてくれた。
アレンは何時も優しいから、私は何時も相談に乗ってもらってる。
そうすると、何故だか安心出来る気がする。
そんなアレンでさえも今回ばかりは私を落ち着かせることは出来なかった。

「...只の思い過ごしなら、良いんだけど...」
「大丈夫ですよ、あの神田ですから」
「それもそうよね」

無理矢理笑顔を作って見せたら彼にはバレバレだったのだろう、苦笑して「きっと大丈夫ですから」
と肩を叩いてくれた。私も自分にそう言い聞かせた。

きっと直ぐに帰ってくるはずだから、と。

次の日、あまり寝付けなくて目にうっすら隈が出来ていた。
上手い事化粧で隠す事が出来たので、あまり気にはしなかったが体の疲れは引きずる一方だった。
朝食に向かうと、リナリーが心配して私のところに飛んできてくれた。
ジェリーさんも健康に良いから、と色々作ってくれた。
(そんなに疲れた顔をしてるんだ、私)
それに二つ三つ前の席で、アレンが心配してくれているのか、こっちを見てる。

「(平気だから)」

口パクでそう言うと、彼はやっぱり苦笑して(嗚呼、全てお見通しなのね)、
朝食とは思えないほどの量の料理を食し始めた。

そんな朝が過ぎて、丁度おやつの時間頃。
科学班から、呼び出しが入った。思わずドキっとした。
向かうと室長がそこにいて、真剣な目をしておいでと言った。
そして沢山の書類に溢れた机に向かって私は歩き出した。
声を絞り出し、何でもないような顔を作り上げ、「何か?」と聞いた。
(きっとこの人もお見通しなんだろうな)

「物凄く、申し上げにくい事なんだけど、」

心臓が、止まるかと思った。

何
何
何

「...神田、何かあったんですか?」

室長は、驚いた後ばつの悪そうな顔をした。(嗚呼、)

「...神田君が、さっき 」

聞きたくない、聞きたくない。

「嘘」

(思い過ごしであって、只胸騒ぎがするだけだってば!)

「...ごめんね」


何で謝るんですか室長が悪いんですか私も連れて行ってください神田今息してるんでしょ聞こえてるよねねえ如何して貴方なの
如何して如何して如何して如何して如何して如何して如何して如何して如何して如何して如何して如何して、返して

いつの間にか部屋を飛び出してた。
アレンとリナリーと目が合って、名前を呼ばれたにも気にとめなかった。
涙は、もしかしたら止め処なく流れていたのかもしれない。

一人になった頃、私はこんな事を考えて、呟いた。


何処まで走れば逢えるかな?


荒野で、砂漠で、
アリアを歌う


もう名前を呼んでも聴こえていないなんて
神様はなんて残酷な事を思い知らせるのでしょうか。


(Yu Kanda Festival)