彼女は不思議な子だった。

「です、宜しくお願いします」

其の日、初めて会話した。

「嗚呼、うん、宜しく」

そしてそんな素っ気無い態度を取ってしまったのに、今も少し後悔している。
けれど仕方が無かった。印象が是でもか、というくらい悪くついてしまったのだ。

シンクロ率があまりにも低い。

「戦闘には向かない能力の上、是では使い物に成らない」

上の者だけで無く、皆そう思っていたのだ。
(リナリーだけは懐いていたけれど)

仕方が無い、ことだったのに。



「し、室長さ、わぁっ」

は大手を振って階段を下りてきたが、
勢い良くすっ転んで山の様な書類をそこ等じゅうにばら撒いた。
そして素早くさっと起き上がり、慌てて拾いだした。
時間がかかるのは目に見える量だった。
とりあえず手伝ってみる。

「・・・・・・・御免なさい・・・」

見ると瞳いっぱいに涙を溜めて、かたかたと震えていた。

「・・・怒ってないよ?」
「・・・御免なさい、違います・・・」
「・・・そう・・・」

何だか妙な空気の中、書類は見事片付いた。

「(・・・今まで生きてきて一番長かった10分・・・)」
「あ、有難う御座いました。是を渡したくて、その、御免なさい」

大きな茶封筒。
上からのものだった。

「・・・済みません、是全部処理しないといけないのでもう行きますね」
「嗚呼、有難う」

てけてけと駆け出したの背中を少し見送って茶封筒の封を開け、
中身を取り出し、目で追う。
内容は、自分の目を疑うものだった。


「・・・だから、泣いてたんだ」


『エクソシスト のシンクロ率増加のための人体実験』


咎落ちになることは、目に見えていた。
何度も其の光景を見てきた。

きっと、彼女は其れを知っている。

知っていて、こんな書類を笑って僕に渡したんだ。
どんな気持ちだったのだろうか。

きっと聞こえない声で、でも大きな声で、叫んだだろう。



でも如何することも出来ないんだ。はがゆい。

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(童話企画)