また、いつものように転ぶ。
杖がぽきり、と折れてしまったからだ。
見えなくても、手のひらに血が滲むのが解かった。
砂の細かな粒が傷口で痛む。

ぽつりと、 「痛い」。

呟いても、皆見向きもせずにスタスタと去ってゆく。

「...痛いよ...」

膝も擦り剥いた。
全身が痛い。
昨日からずっとこうだ。
何時もこうやって何度か転ぶ。

誰も助けては。くれないから。

「あの、大丈夫ですか?」

この時、まさか私に声を掛けた、なんて
思っても見なかった。

彼は私の返事が無かったから、顔の前で手をふるふる
振った。風がやってきて、私は其の時やっと、

嗚呼私に云っていたのだ、と理解した。

「...あ、大丈夫...」
「え、と。でも血が」
「...何時もの、事だから」

痛む手を、地面にぺたり。
力を入れてゆっくり起き上がる。(是が又痛いのだ)

「もしかして、目見えないんですか?」

はっ、とした。

「え?何で。わかったの?」
「目線、と・・・一応手、差し伸べてたんですけど」
「...御免なさい」
「いえ。...もう暗くなりますから、送りますよ」

(優しい、けれど誰だろう。)

私は彼に負ぶさった。
重いだろうから結構だ、と断ったのに。

嗚呼、月が出てきました。
彼は云った。けれど生まれつき目を持っていない私は
つきがどの様なものなのか、まったく解からない。
問うてみると、彼はうーん、と唸った。

「難しいですね。えーっと、星の大きいバージョンです」
「...私星も見たこと無い」
「...」

彼は黙り込んで、後に又唸りだした。
そしてゆっくりと、思いついたであろう言葉を並べた。

「丸くて...光ってて...空に浮いていて、あと。綺麗です」
「...浮いてる?」
「はい、あ。丁度天井から下げたランプみたいです」
「...其れも、知らない」

一生懸命私に教えてくれているのに、私は少しも理解出来ない。

「...見たいなあ、貴方と同じものを」



私を2003につれてって!



貴方はどんな顔をしただろう。
是ほど自分を恨んだことは無い。


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(CRY FOR MOON)