「、何ですか其れ」 彼女は珍しく本を読んでいた。 はちゃんとした教育を受けていないため、言語には疎い。 不便なので上手く教えようとするけれど、勉強が苦手な様。 読書なんて以ての外。 「...貰った、千種。に」 どれ、と表紙を見る。 「...『ひみつ』...しかも絵本」 「...あたし 文字嫌い、だから。絵本、なの。」 文字だけじゃない。君は言葉も嫌いだろう。 「(何てこと云ったら拗ねるだろうな)」 「・・・むくろ?」 「嗚呼、いえ・・・少し呆けていただけです」 「・・・返して?」 「・・・」 僕と居るよりか千種に貰った本を読むほうが楽しいんですね 「(って、否々。)」 「むくろ」 「あ、はい?」 「えっと、ね、これ何て読むの?」 「...絵本だから平仮名でしょう?」 指差す文字を覗く。 平仮名の『を』だった。 「其れは、を、です」 「...違うよ。お、は...お だもん」 「どちらも、同じ読み方です」 「変なの」 ふと、 嗚呼、僕も昔読めなかったな。 なんて思う。 彼女は機嫌を損ねて僕に背を向けて其れを読み出した。 「(...僕、何も悪いことしていないんですけどね)」 黙々と集中し、とうとう彼女は其れを読破した。 ぱたん、と表紙を閉じる音がした。 後ろを向いた儘、第一声。 「...深い」 「...え?不快?」 「...ふ。か。い。」 は単調であまり変化の無い言葉を話す。 そう、棒読み、というやつ。 言葉をあまり知らない彼女の成りきれていない言葉を理解するのはとても大変なこと。 でも君は一生懸命、口に出すんだ。 そして僕も一生懸命、其れに努める。 「嗚呼、そういう・・・ふかい。ですか」 「この前、教えて貰ったの。良い言葉」 「そうですか」 「むくろも、ふかい」 「・・・僕はどっちのふかい、ですか?」 「・・・『ひみつ』」 きみに触れて、たしかめる